収益還元法とは?計算式や特徴、算出するメリットを分かりやすく解説
目次
不動産価格を算出する方法の一つとして「収益還元法」が挙げられます。しかし、そもそも収益還元法とは何か分からない方や、特徴や計算式について知りたい方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、収益還元法の特徴や計算式について詳しく解説します。実際のシミュレーション例も解説するので、収益還元法の計算方法について理解を深められるでしょう。
収益還元法とは?積算法や取引事例比較法とどう違う?
不動産価格の主な算出方法は「収益還元法」「原価法」「取引事例比較法」の3つに分けられ、それぞれ計算方法や考え方が異なります。ここでは、以下について詳しく解説します。
- 収益還元法の考え方
- 原価法との違い
- 取引事例比較法との違い
収益還元法の考え方
「収益還元法」は不動産の収益性に着目し、対象の投資用不動産が将来どれだけの収益を生み出す力があるかを加味して不動産価格を算出する方法です。収益還元法では、将来的な収益性の高さが期待されるほど不動産価格も高くなります。
なお、収益還元法には「直接還元法」と「DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法」の2種類があり、それぞれ計算方法や特徴が異なります。直接還元法とDCF法の特徴については後述します。
原価法との違い
原価法は路線価や公示価格、固定資産税評価額などを基に土地と建物の価格を算出し、減価修正(経過年数による価値の低下を割り引くこと)して現在の価値を算出する方法です。収益還元法との大きな違いは、投資用不動産の収益性を加味しない点にあります。
また、土地と建物を別々に評価するところも収益還元法とは異なるポイントです。地価は景気動向などによって変動し、建物は築年数や構造、立地などによって資産価値が変わります。
取引事例比較法との違い
取引事例比較法は、対象の投資用不動産と類似した不動産の取引事例を集め、それらの成約価格と比較して評価する方法です。不動産価格を算出する際は必要に応じて事情補正(取引価格に影響を及ぼす事情があった場合に行われる価格補正)や時点修正(時間の経過による価値の変動などを考慮して行われる価格調整)を行い、地域要因や個別的要因も加味して比較します。
実際に行われた取引事例を参考にすることから、「収益性」に着目した収益還元法とは異なり、「市場性」に着目した算出方法といえるでしょう。
収益還元法の正しい計算式とシミュレーション例
収益還元法は直接還元法とDCF法に分けられ、計算式や考え方はそれぞれ異なります。ここでは、直接還元法とDCF法の計算式に加え、それぞれのシミュレーション例も紹介します。計算式やシミュレーション例を基に、直接還元法とDCF法の違いについて理解を深めましょう。
直接還元法による計算
直接還元法は、一定期間の純利益を還元利回りで割って不動産価格を求める方法です。計算式で表すと、「不動産価格=1年間の純利益÷還元利回り」となります。
純利益とは、家賃収入から管理費や修繕費、税金といったさまざまな運用コストを差し引いた金額です。また、還元利回りはキャップレートとも呼ばれ、投資用不動産の収益性を表す利率を指します。
投資用不動産の適正価格を知るには還元利回りが重要であり、還元利回りが高いほど投資金額に対する利益が多くなります。
直接還元法による計算例
年間の家賃収入や諸経費、還元利回りが以下の条件における不動産価格を直接還元法で算出してみましょう。
年間家賃収入:1,500万円
年間諸経費:200万円
還元利回り:5%
前述のように、直接還元法は「1年間の純利益÷還元利回り」という計算式で不動産価格を算出できます。そこでまずは、1年間の純利益を求めましょう。1年間の純利益は年間の家賃収入から年間の諸経費を差し引くことで算出可能です。
1年間の純利益=1,500万円-200万円=1,300万円
純利益が導き出せたら、還元利回りで割って不動産価格を求めていきます。
不動産価格=1,300万円÷5%=2億6,000万円
以上の計算により、直接還元法で算出された不動産価格は2億6,000万円であることが分かります。
DCF法による計算
DCF法は、投資用不動産の所有期間中における家賃の下落率や空室率を加味して不動産価格を算出する方法です。所有する投資用不動産から将来にわたって得られるであろう収益や売却益を現在の価値に換算し、その合計額から不動産価格を導き出します。
DCF法の計算式は以下の通りです。
年間家賃収入÷(1+割引率)+年間家賃収入÷(1+割引率)2乗+年間家賃収入÷(1+割引率)n乗+売却価格÷(1+割引率)n乗
DCF法では割引率を設定するため、直接還元法よりも算出方法が複雑になりますが、その分精度の高い評価が可能です。
DCF法による計算例
DCF法を利用し、以下の条件で不動産価格を計算します。なお、ここでは空室率の計算は行わず、割引率のみを考慮して計算します。
年間家賃収入:1,500万円
5年後に2億5,000万円で売却
割引率:3%
小数点以下切り捨て
1年目 | 1,500万円÷(1+0.03)=1,456万3,106円 |
2年目 | 1,500万円÷(1+0.03)2乗=1,413万8,938円 |
3年目 | 1,500万円÷(1+0.03)3乗=1,372万7,124円 |
4年目 | 1,500万円÷(1+0.03)4乗=1,332万7,305円 |
5年目 | 1,500万円÷(1+0.03)5乗=1,293万9,131円 |
売却時 | 2億5,000万円÷(1+0.03)5乗=2億1,565万2,196円 |
割引率を加味した5年間の家賃収入は6,869万5,604円、5年後の売却価格は2億1,565万2,196円であり、これらを合計すると2億8,434万7,800円となります。
収益還元法に基づいて物件価格を高めるには
収益還元法では、投資用不動産の収益性が高いほど算出される物件価格も高まります。そのため、入居率を上げて家賃収入を増やすか、賃料を上げて全体の収益性を高める必要があるでしょう。ここでは、収益還元法に基づいて物件価格を高めるコツを解説します。
入居率を上げる
収益還元法では投資用不動産の収益性を加味するため、物件価格を高めるには入居率を上げる必要があります。しかし、投資用不動産を所有する上で空室リスクは避けられません。特に中古不動産の場合は、新築と比べて入居率を上げるための工夫が必要となるでしょう。
入居率を上げるには、入居者の需要に合った魅力的な部屋作りを行うことが大切です。また、入居者募集に強い不動産管理会社に管理を委託することも重要となります。空室発生から入居までの期間をなるべく短くするなど、工夫次第では高い入居率を維持でき、安定した家賃収入を得られるでしょう。
賃料UPを狙う
投資用不動産の賃料を上げて入居者を募集すれば、全体の収益性も高くなります。しかし、やみくもに賃料を上げると入居率が下がる可能性もあるため注意が必要です。リフォームやリノベーションを行ったり、人気設備を設置したりするなど、賃料UPに見合った工夫が必要となるでしょう。
また、賃料を競合物件や周辺の相場よりも高く設定してしまうと、入居希望者が他の物件に流れてしまいかねません。賃料を上げる際は相場や競合物件の賃料などを調査の上、計画的に行いましょう。
収益還元法で計算をする際の注意点
収益還元法の計算では、将来的な収益と費用を可能な限り正確に予測しなければなりません。また、収益還元法以外にも不動産価格を算出する方法はあるため、他の算出方法も考慮して多角的に判断する必要があるでしょう。ここでは、収益還元法で計算をする際の注意点について具体的に解説します。
将来的な収益と費用を計算するものである
収益還元法は将来的な収益と費用を予測して不動産価格を算出する方法であり、現在の収益や費用を基に割り出すものではありません。そのため収益還元法で不動産価格を算出する際は、将来的な収益と費用の予測精度を高めることが重要です。
予測を立てる際は、対象の投資用不動産が長期的に収益を維持できるかどうかについても考える必要があります。築年数や間取り、設備といった物件特有の要素に加え、立地や周辺環境なども考慮する必要があるでしょう。
計算に妥当性があるかを考える必要がある
収益還元法で不動産価格を算出する際は、計算に用いるデータに妥当性があるかどうかを考えなければなりません。計算に用いるデータが周辺の相場や競合物件のデータと乖離している場合、適切な不動産価格を算出できなくなります。
例えば、賃料や還元利回りが周辺の相場や競合物件と比べて妥当かどうかをしっかり調査する必要があります。また、賃料の下落率や空室率は物件の築年数・立地といった諸条件によって変わるため、対象となる投資用不動産によって考え方が異なるでしょう。
価格だけでは判断しない
投資用不動産の適切な価格を見極める意味でも、収益還元法は有効な手法といえます。しかし、投資用不動産の収益性や将来性を判断する要素は他にもあるため、収益還元法による計算だけで不動産価格を判断することはおすすめしません。
対象の投資用不動産には入居したくなるような魅力があるか、長期的に安定した収益の獲得が期待できるかといった観点などから、多角的に判断しましょう。
まとめ
収益還元法は投資用不動産の「収益性」に着目した方法であり、「直接還元法」と「DCF法」の2つに分けられます。投資用不動産の購入を検討している方は、それぞれの計算式や考え方を把握しておきましょう。
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