独身税って日本にあるの?配偶者の有無で異なる税金の種類と節税方法
目次
独身の方は既婚者と比較して税負担が重いと感じる機会が多いのではないでしょうか。実際に独身者と既婚者では税金の控除額が異なり、独身の方は税負担が重くなるケースがあります。
本記事では「独身者と既婚者の税負担の違い」や「昨今話題になっている独身税の現状と将来」について解説します。独身者ができる税金対策についても紹介するため、税金を安くしたい独身の方は本記事を参考にしてみてください。
独身税は日本で施行されているの?
独身税は、以前海外で施行された事例があります。近年の日本では独身者数が増えていることもあり、施行される可能性があるのか気になる方も多いのではないでしょうか。
そこで独身税の目的やデメリットについて次の項目で解説します。
2023年現在、日本には独身税はない
2023年現在、日本には「独身税」に該当する税金はありません。独身税とは未婚の成人を対象に課される税金を意味し、施行された場合に未婚者の税負担が増大します。
独身税に関してはネット記事で取り上げられてから議論が巻き起こっていますが、施行については反対意見が多いです。また世界的に見ても独身税が施行された国は極めて少なく、現実的ではないといえます。
独身税の導入に総意が得られない理由として「デメリットが多い」「独身と既婚者では納める税額がすでに異なっている」などが挙げられます。次の項目では独身税についてさらに掘り下げて解説します。
独身税の目的と反対意見
独身税の導入の目的として「少子化対策や既婚者の経済的支援につなげる」などが挙げられます。独身税が導入されると独身者と既婚者の税負担の格差が大きくなり、結婚する人が増えることで少子化対策につながると考えられています。
しかし独身者の税負担が増大しても結婚の促進につながるとは限りません。「独身者の税負担が増えるとますますお金がなくなって結婚が遠のく」といった意見や、「税負担を軽くするために結婚することはない」といった反対意見が寄せられています。
また、結婚する人が増えても必ずしも出産するとは限らず、DINKs(子どもを持たない夫婦)という生き方を選ぶ選択肢もあります。したがって独身税を導入しても、必ずしもそれが少子化対策につながるとはいえません。
ネット上では、独身税の導入に関して否定的な意見が数多く寄せられています。2017年8月に石川県かほく市の「かほく市ママ課」で意見交換会が実施され、財務省担当者が「独身税の議論はあるが進んでいない」という旨の発言をし、波紋を呼びました。
財務省担当者の発言に対して、ネット上で独身税についての議論が巻き起こり、独身税の導入に反対する意見が多数を占めました。反対意見は「世代や経済的な状況を考慮しなければ不公平な税金の徴収につながる」というものです。
「既婚者は配偶者控除や扶養控除などの税制上の恩恵をすでに受けている」という反対意見もあり、独身税の導入に関しては広く社会的な合意は得られていないのが現状です。
海外では施行された事例もある
ごくわずかですが、独身税が施行された事例もあるためそれらについて紹介します。東欧のブルガリアでは1968年から20年以上にわたって「独身税」が施行され、また旧ソ連でも子どもがいない夫婦や独身男性を対象に「子なし税」が課されていました。独身税や子なし税が施行されていた理由はいずれも少子化対策が目的です。
しかし独身税や子なし税を実施しても出生数の増加にはつながらず、大した成果は得られませんでした。ブルガリアでは独身者の収入に対して5~10%もの税率で課税されていましたが、結果として1人の女性が一生で産む子どもの数を指す合計特殊出生率は21年間で2.18から1.86に低下しています。
ブルガリアで独身税を施行した目的とは裏腹に出生数が減少した理由は、税負担の増大で貯金ができなくなり結婚や出産が厳しくなってしまったためとされています。独身税が導入されると独身者の税負担が増大し、手取り収入が少なくなってしまうのです。
日本でも合計特殊出生率は低下しており、1974年には2.05でしたが2019年には1.36まで下がっています。少子化の原因はいろいろありますが、デフレによる収入減で結婚したくてもできない独身者が増えているのも原因のひとつです。
「年収が少ない」ことを結婚できない理由に挙げる人は多く、海外での失敗例もあるため、日本では将来的に独身税が導入される可能性は低いと考えられます。なお、独身税が導入されなくても、配偶者控除や扶養控除などの控除制度によって未婚者と既婚者の税負担には格差があります。
次の項目では未婚者と既婚者の税負担の違いを見ていきましょう。
実質独身税?独身と既婚者の控除の違い
独身税は日本を含むどの国でも現在は施行されていませんが、実質的に独身税と捉えられる制度があります。次の項目では独身と既婚者における控除の違いを解説しましょう。
配偶者や家族の有無で「所得控除額」が異なる
独身と既婚者では適用される「所得控除額」が異なり、既婚者のほうが適用される所得控除が多いです。独身者は適用される所得控除が少なく、また税負担も重くなる点が実質的に独身税の役割を果たしているといえます。
税制上の所得控除とは所得の合計金額から一定額を差し引く制度を指し、 差し引く金額は控除額(所得控除額)といわれています。所得から一定額を控除すると課税される所得金額(課税所得)が少なくなるため、所得税を低くおさえられます。
所得税は以下の計算式で算定します。
所得税 =(収入-経費-所得控除額)× 税率
上記の計算式から明らかである通り経費と所得控除を増やすと所得税を低くおさえられます。ただし所得控除は一定の要件を満たさなければ適用されず、独身者と既婚者・扶養家族では適用要件が大きく異なります。
なお、所得控除の種類は以下の通りです。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄付金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
上記のうち「配偶者控除」「配偶者特別控除」「扶養控除」は配偶者や子どもなどの扶養家族がいる人に対して適用されます。
配偶者控除と配偶者特別控除
配偶者控除と配偶者特別控除は納税者本人もしくは配偶者が一定の条件を満たしている場合に適用される所得控除です。既婚者のみが対象になり、独身者には適用されません。なお、条件には「民法の規定による配偶者」である内容も含まれているため、納税者と生計を一にしていても内縁や同棲の場合は対象外です。
配偶者控除が適用されると納税者本人の所得から以下の金額が控除されます。なお納税者本人とは夫が会社員で妻が専業主婦もしくは兼業主婦であった場合は夫を指します。
控除を受ける 納税者本人の 合計所得金額 | 一般の控除対象 配偶者の控除額 | 老人控除対象 配偶者の控除額 |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
たとえば、夫が会社員で妻が専業主婦の場合、夫の所得が900万円以下であれば所得から38万円(妻が70歳以上であれば48万円)を控除できます。配偶者控除が適用されると所得から38万円を控除できるため課税所得が少なくなり、所得税を軽減可能です。
なお、夫が会社員で妻が兼業主婦の場合だと、妻の年間の合計所得金額が基礎控除の48万円を超えると配偶者控除が受けられなくなるため注意が必要です。妻がパートで働いている場合だと給与所得控除で55万円が控除されるため、妻の所得が103万円(48万円(基礎控除) + 55万円(給与所得控除))を超えると配偶者控除は適用されません。これがいわゆる「所得税の103万円の壁」と呼ばれているものです。
パートで働いている妻の所得が年間103万円を超えると配偶者控除は受けられなくなりますが、一定の条件に該当する場合は配偶者特別控除が適用されます。配偶者特別控除とは配偶者の所得金額によって納税者本人の所得から一定額を控除する制度です。
配偶者特別控除の適用を受けるには夫の合計所得金額が1,000万円以下であり、妻の合計所得金額が48万円超133万円以下である要件を満たす必要があります。
配偶者特別控除が適用されると夫の所得金額から以下の金額が控除されます。
配偶者の 合計所得金額 | 控除を受ける納税者の合計所得金額 | ||
900万円以下の場合の控除額 | 900万円超950万円以下の場合の控除額 | 1,000万円以下の場合の控除額 | |
48万円超95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
たとえば、夫の所得金額が500万円であり、妻の合計所得金額が125万円であった場合、500万円から11万円が控除されます。したがって妻の所得が103万円を超えても、所得税を低くおさえられます。
しかし、独身者の場合は配偶者控除や配偶者特別控除が適用されないため、最大38万円(配偶者が70歳以上の場合は48万円)の控除が受けられません。
それぞれ比較すると配偶者控除や配偶者特別控除が適用される既婚者の方が所得税は低くなるため結婚すると税金は安くなるといえます。そのうえ、子どものいる家庭では次の項目で解説する扶養控除も適用されるため税金はさらに安くなります。
扶養控除
扶養控除とは子どもや両親など親族を養っている人が受けられる所得控除です。控除の対象に該当する方は生計を一にしている16歳以上の親族であり、配偶者は対象になりません。配偶者は配偶者控除・配偶者特別控除が適用されるため扶養控除の対象からは除外されます。
16歳未満の子どもも除外されますが、扶養控除の代わりに児童手当が支給されます。生計を一にしている子どもがいる既婚者は扶養控除や児童手当が受けられるため、独身者よりも公的扶助は充実しているといえます。
しかし、結婚していない独身者であっても、生計を一にしている両親や兄弟などを扶養している場合は申告すると扶養控除を受けられます。
ただし、扶養控除を受けるには生計を一にしている扶養家族の所得金額が48万円以下である要件を満たすことが必要です。生計を一にしている親族が正社員やアルバイトなどで給与所得を得ている場合は、配偶者控除と同様に年間所得が103万円以下である要件を満たすことが必須です。
扶養控除が適用される場合の控除額は38万円~63万円で、扶養家族の年齢によって異なります。なお、70歳以上の親族は同居か別居によって控除額が異なり、同居の場合の控除額は58万円、別居の場合は48万円です。
既婚者は控除や手当てを受けることができる
独身者と比較して既婚者は控除できる項目が多いだけでなく、受けられる手当ても多くあります。そこで既婚者が受けられる控除や手当てを次の項目で解説しましょう。
所得税のシミュレーション
独身者と既婚者の違いは調整できる所得控除の数です。既婚者は「配偶者控除」「配偶者特別控除」「扶養控除」などの所得控除を活用すると、独身者よりも税金を低くおさえられる可能性があります。
独身者と既婚者が所得控除を受けるとそれぞれどの程度手取り収入が変化するかについて、実際にシミュレーションしてみましたのでご覧ください。
年収500万円の所得税・住民税の違い
家族構成 | 所得税 | 住民税 | 手取り |
独身 | 13.9万円 | 24.4万円 | 391万円 |
夫婦 | 10.1万円 | 21.1万円 | 398万円 |
夫婦と子ども(1人) | 8.04万円 | 17.8万円 | 403万円 |
夫婦と子ども(2人) | 6.14万円 | 14.5万円 | 408万円 |
年収500万円の場合だと独身者の手取り収入は391万円になります。一方で、夫婦で2人暮らしをしている既婚者の場合だと手取り収入は398万円です。したがって結婚すると子どもがいない場合でも手取り収入が増えるといえます。
子どもがいる場合はさらに手取り収入が増え、夫婦と子ども1人の計3人家族の場合だと手取り収入は403万円に増やせます。さらに子どもが増えて4人家族の場合だと手取り収入は408万円です。
もちろん家族が増えると食費などの生活費も増大するため、手取り収入が増えても必ずしも生活が楽になるわけではありません。一方、独身だと税金の負担が増大して手取り収入は減りますが、1人暮らしだと出費が少ないため生活は楽になる場合があります。
出産一時金・出産手当金などの手当てもある
既婚者には出産一時金や出産手当金などの手当てがあり、子どもを出産する際は国から金銭的なサポートを受けられます。ただし未婚者でも健康保険に加入していれば出産一時金は受け取れます。
出産一時金とは出産した際に42万円の給付金を受け取れる制度であり、健康保険や国民健康保険の被保険者、被扶養者が対象です。出産手当金とは産休中の女性の生活を保障するための制度であり、出産のために会社を休んだ期間に手当てが支給されます。
出産一時金・出産手当金の概要は以下の通りです。
目的 | 対象 | 給付額 | |
出産一時金 | 出産にかかる費用の軽減 | 健康保険や国民健康保険の被保険者・被扶養者 | 1児につき42万円 |
出産手当金 | 産休中の生活保障 | 健康保険の被保険者(国民健康保険・被扶養者は対象外) | 妊婦によって異なる |
独身者が検討すべき3つの節税方法
独身者よりも既婚者のほうが税負担を軽減できる制度が多いのは事実です。しかし節税対策を行うと独身者でも税負担を軽減できます。独身者におすすめの節税方法は次の通りです。
- つみたてNISA
- iDeCo(確定拠出年金)
- 不動産投資
独身者が検討すべき節税方法を次の項目から解説します。
つみたてNISA
「つみたてNISA」は少額からの長期、積立、分散投資を支援するための非課税制度であり、年間40万円までの非課税投資枠と最長20年間の非課税期間が設けられている特徴があります。
通常の場合、資産運用で利益が出ると20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税率で税金が課されますが、「つみたてNISA」を利用すると年間40万円まで非課税で資産運用ができるため節税が可能です。
非課税期間は20年間もの長期間であるため「つみたてNISA」を利用すると最大で800万円(40万円×20年)も節税できます。「つみたてNISA」は非課税投資枠が大きく、非課税期間も長いため非常に有利な節税対策だといえます。なお、つみたてNISAに関しては、2024年以降「新しいNISA」としてより拡充・恒久化に重きを置いた制度が導入される予定です。
独身者は配偶者控除や扶養控除などの所得控除が受けられないため既婚者よりも税負担が重くなる可能性がありますが、「つみたてNISA」を利用すれば大きな金額の節税が可能です。
「つみたてNISA」は日本在住の18歳以上の人が対象であり、NISA口座(非課税口座)を開設すると始められます。NISA口座は無料で開設でき、投資信託であれば100円からの少額で資産運用ができます。
iDeCo(確定拠出年金)
iDeCo(確定拠出年金)は節税しながら資産運用をすることで、公的年金に加えて老後資金を形成できる私的年金制度です。毎月事前に決めた掛金を拠出して老後資金を積み立てるイメージですが、全額所得控除の対象になるため大きな節税効果が得られます。
掛金だけでなく利息や運用益も全額非課税になり、60歳以降に受け取れる給付金も税制上の優遇措置が受けられます。iDeCoは非課税になる範囲が広いため、節税効果は高いです。独身者は適用される所得控除は既婚者よりも少ないですが、iDeCoを利用すると掛金の全額が所得控除の対象になるため税制上のデメリットを補えます。
ただしiDeCoは自分自身で資産運用をしなければならず、金融商品によっては元本割れを起こすリスクがあります。また、iDeCoは老後資金を形成するのが目的であるため、原則として60歳になるまでは積み立てたお金を引き出すことはできません。さらに運用する際は一定の手数料がかかるデメリットもあります。
不動産投資
マンション経営やアパート経営などの不動産投資も、独身者におすすめの節税対策のひとつです。不動産投資はタックスコントロールができる数少ない投資方法であり、損益通算をすると所得税や住民税の節税につながります。
損益通算とは不動産所得や事業所得の赤字分を総所得金額から差し引き、課税所得を圧縮することです。たとえば減価償却費などによる不動産所得の会計上の赤字を総所得から差し引くことで、節税可能です。
不動産投資は所得税や住民税の節税効果が得られるだけでなく、課税標準額が低くなる特徴によって相続税や贈与税の節税にもつながります。さらに安定した家賃収入を毎月得られる点もメリットです。
不動産投資をするにはある程度のまとまった資金が必要になりますが、不動産投資ローンを利用すると自己資金が少なくても投資を始められます。また、ローンを利用するとレバレッジ効果も得られ、効率良く資産を増やせる可能性があります。
自分だけでは手を回せない場合は業務を管理会社へ委託すると、管理や運用の手間を減らすことが可能です。なお、不動産投資には以下のリスクがありますのでそれを踏まえて、取り組みましょう。
- 空室リスク
- 家賃滞納リスク
- 金利上昇リスク
- 災害リスク(火災や地震など)
不動産投資のリスクは、事前に知っておくことで対策が出来るものがほとんどです。検討をする際は、自分に合った物件がなにかを把握しましょう。
まとめ
独身者の税金を増やす「独身税」は現代では存在していません。しかし独身者は既婚者と比較して適用される所得控除が少なく、税制上は不利な扱いを受けているといえます。ただし独身であっても節税できる方法はたくさんあるため、老後に向けた資産形成を含めて総合的にお金について考えることをおすすめします。
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