家賃収入の消費税が非課税になる条件とは?インボイス制度も解説
目次
不動産投資を始め、課税事業者になった場合には、消費税を納めなければならないケースもあります。居住用物件の家賃収入の消費税は非課税ですが、全てにおいて非課税になるわけではありません。また、事業用物件でも課税されない場合もあります。
不動産投資で家賃収入を得るにあたり、具体的にどのようなケースで課税・非課税になるのか、きちんと押さえておくことが大切です。この記事では、今後始まるインボイス制度についても触れながら、家賃収入にかかる消費税の基礎知識を解説します。
居住用物件の家賃収入にかかる消費税は原則非課税
居住用物件からの家賃収入は、原則として消費税非課税です。敷金・礼金も同じく非課税と決められています。しかし、非課税と認められるには条件があります。ここでは、居住用物件と消費税の関係性について、次の点を解説します。
消費税非課税になるための3つの条件
消費税が非課税になるための条件は、次の3つです。
- 1か月以上の賃貸契約がある
- 契約書に「居住用」であることを記載している
- 契約書に記載がなくても居住の実態がある
居住用物件であっても、賃貸契約が1か月未満の場合は「居住用ではない」とみなされ、消費税が課せられます。また、たとえ1か月以上の賃貸契約であっても、ホテルや旅館・ウィークリーマンションなどは例外であり、消費税の課税対象です。
居住用物件であることは、契約書に明記しておくことが重要です。企業が社宅として借り上げている場合でも、用途が居住用であれば非課税となります。
なお、仮に契約書に記載がなくても、居住している実態が明らかな場合は課税されません。
居住用物件で消費税非課税になるもの
消費税の非課税対象となる収入には、次のようなものがあります。
- 家賃(前家賃や日割り家賃を含む)
- 礼金
- 更新料
- 共益費や管理費
- 敷金
基本的に居住用物件のものであれば、家賃だけでなく礼金や更新料・共益費・管理費にかかる消費税は非課税です。ただし、共益費や管理費の中に水道代やガス代などを含まず、家賃とは別に徴収する場合は課税対象となる点に注意が必要です。
また敷金は、退去時に修繕費を差し引いて返還される取り扱いの場合、「預り金」の性質を持つと判断され、居住用・事業用物件にかかわらず、消費税の課税対象とはなりません。
駐車場の消費税が非課税になるための条件
駐車場やバイク置き場を確保している物件の場合、家賃の他に駐車場代を徴収することもあるでしょう。駐車場代は基本的に消費税の課税対象ですが、以下の全ての条件を満たすことで非課税扱いになります。
- 1戸あたり1台以上の駐車スペースがある
- 家賃に駐車場代が含まれている
ただし、駐車スペースが居住スペースと離れた場所に設置してある場合は課税対象となる可能性があります。例えば居室数が多く全戸分の駐車スペースを確保できず、家賃と別に駐車料金を設定し、希望者のみに貸し出しているケースでは課税される傾向にあります。物件を取得する段階からよく確認しておきましょう。
事業用物件(店舗・事務所など)は原則消費税課税
居住用物件は原則、消費税は非課税ですが、店舗や事務所などの事業用物件の場合は課税されるのが基本です。ここでは、紹介する主な内容は以下の3点です。
- 居住用途でなければ課税対象
- 併用の場合は事業用部分のみ課税対象
- 非課税事業者であれば消費税を納める必要はない
居住用途でなければ課税対象
事業用の家賃収入とは、店舗や事務所、倉庫などとして貸し出した物件で得た収入のことをいいます。物件の用途は大きく「居住用」と「事業用」の2つに分かれます。居住用は人が住むことを目的としている物件であり、事業用は住むこと以外の用途で使用される物件です。
そのため、所有している物件が店舗や事務所などの事業用物件の場合、家賃に消費税が加算されることを想定して家賃を設定しなければならないといえるでしょう。例えば、20万円の家賃を得るためには、借主から22万円(消費税10%の場合)を受け取る必要があります。
併用の場合は事業用部分のみ課税対象
事業用物件であっても、住居兼事務所という場合もあります。例えば契約書に「居住兼事務所用」などと記載されている併用可能な物件では、居住スペースと事務所スペースの床面積で賃料を按分し、事業用の部分のみが課税対象となるのが一般的です。
なお、当初は居住用として契約した物件を、賃借人が契約変更をせずに事業用へ転用するケースでは、原則として課税対象となりません。あくまでも「居住用」として賃貸していることになるためです。
ただし、これは賃借人の問題ですが、勝手な用途変更は契約違反であることを念押しし、自身が税務調査等で指摘された際に備えておくとよいでしょう。
非課税事業者であれば消費税を納める必要はない
事業用として貸し出している場合であっても、非課税(免税)事業者であれば消費税は課せられません。非課税事業者の要件は、課税期間において、「基準期間と特定期間の課税売上高が1,000万円以下」です。
- 課税期間:個人事業主は暦年/法人は事業年度
- 基準期間:個人事業主は前々年/法人は前々事業年度
- 特定期間:個人事業主は前年の1月1日から6月30日/法人は前事業年度開始の日以後6か月
なお、居住用物件の家賃収入であれば、課税売上高1,000万円を超えても消費税は課せられません。しかし、居住用物件と事業用物件の両方から収入がある場合は、事業用の収入部分が1,000万円を超えると課税業者になります。両方の物件を所有している方は、家賃収入の内訳を把握しておくようにしましょう。
売上5,000万円以下なら簡易課税制度の利用が便利
ここでは、消費税が課税される場合の納税額の計算について解説します。焦点を当てるのは、次の3つです。
- 原則課税と簡易課税
- 簡易課税制度を利用するための条件
- 原則課税か簡易課税かは予備知識をつけて選択すること
原則課税と簡易課税
消費税の納税額の計算方法には、「原則課税」と「簡易課税」の2つがあります。
原則課税とは、受け取った消費税から支払った消費税を差し引き、差額分を納税する方法です。
一方、簡易課税は、受け取った消費税に「みなし仕入率」という一定割合を乗じて納税額を計算します。不動産業の場合、みなし仕入率40%と定められています。
一例として、課税売上高が2,000万円のケースで納税額を計算してみましょう。
課税売上高に対する消費税額:2,000万円×10%=200万円
課税仕入等税額:200万円×40%(みなし仕入率)=80万円
200万円-80万円=120万円(納税額)
原則課税は、全ての取引で消費税を管理する必要があります。中には消費税がかからないものもあり、きっちり区分けしなければなりませんが、正確性を担保できます。
簡易課税は、例で示したように納税額の計算が簡単で済みます。経理の手間や人手を大幅に削減できますが、みなし仕入率を用いた簡易計算であるため、消費税の還付を受けられません。
簡易課税制度を利用するための条件
原則課税と簡易課税とでは、消費税の納税額が大きく変わる場合があるため、どちらを選ぶかは慎重に決める必要があります。
もっとも、簡易課税を選択するには適用条件を満たさなければならず、誰でも利用できるわけではありません。適用条件は次の通りです。
基準期間の課税売上高が5,000万円以下
課税対象となる取引で、売上高から非課税や不課税取引の金額を差し引いた結果が5,000万円以下であれば、簡易課税を選択できます。
「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している
管轄の税務署に「消費税簡易課税制度選択届出」を提出する必要があります。適用を受ける課税期間の前日までに提出しましょう。個人の場合は暦年(1月1日~12月31日)なので、次年度に簡易課税制度を利用したいなら本年中に提出しなければなりません。
原則課税か簡易課税かは予備知識をつけて選択すること
原則課税か簡易課税制度か、メリット・デメリットのバランスは業態によって変わります。不動産賃貸業の収入に限っていえば、経費が少ないケースが多いため、簡易課税制度を選んだほうが納税額を抑えやすい傾向があります。
もちろん、高額な物件の購入費や設備投資費などで消費税の還付を受けたい場合は、原則課税が適しているでしょう。また簡易課税制度は、一度選択すると2年以上継続しなければならない決まりがあります。大規模修繕や改装などのタイミングによっては、簡易課税制度のデメリットが際立つかもしれません。
消費税に限らず、納税に関わる制度の選択は、目先のメリットだけにとらわれると足元をすくわれる恐れがあります。税理士とよく相談し、投資用物件や経営方針に適したほうを選びましょう。
不動産投資はインボイス制度でどう変わる?
インボイス制度とは2023年から導入予定の、新しい消費税の納税制度です。2019年10月より8%と10%の消費税率が平行運用されていますが、取引の合計金額だけでは税額の把握がしにくいこと、正しく公平に課税できていない現状を是正することが目的で導入されることになりました。
インボイス制度が導入されることで、不動産賃貸業にも一定の影響を及ぼすことが予想されます。ここでは、インボイス制度の基礎知識と制度の導入に向けた対策例を紹介します。
- インボイス制度とは
- 事務所や店舗がある場合は対策が必要なケースも
インボイス制度とは
「インボイス」は通称であり、正確には「適格請求書等保存方式」といいます。適用税率や税額の記載を義務付けた「適格請求書」の発行・保存が仕入額控除(受取消費税から支払い消費税を控除すること)の条件となり、適格請求書を満たさない場合は仕入税額控除が受けられないことになります。これは貸し手側・借り手側の双方に適用されます。
例えば、事業用物件を月10万円で貸し出している場合、これまでは消費税分の1万円も含めて年間132万円の収益を得られましたが、インボイス発行事業者は消費税として納税しなければなりません。
簡易課税制度を適用すると年間で「12万円×40%」で4万8,000円を納税することになり、この事業用物件から得られる年間収入は127万2,000円に落ちる計算になります。
なお、適格請求書は誰でも発行できるわけではありません。所轄の税務署に登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)になる必要があります。適格請求書発行事業者となった者は、現行制度の「区分記載請求書」の内容に加え、次の3点を記載した請求書を発行します。
- 登録番号
- 適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
とはいえ、年間の課税売上高1,000万円以下の免税事業者にとっては大きな変化であるため、インボイス制度の導入から当面の間は、一定の割合までは仕入額控除が認められる経過措置が設けられています。
2023年 10 月1日~2026年9月 30 日:仕入税額相当額の80%
2026年 10 月1日~2029 年9月 30 日:仕入税額相当額の50%
事務所や店舗がある場合は対策が必要なケースも
基本的に非課税である家賃収入しかない不動産オーナーは、インボイスの影響を受けることはないでしょう。しかし、事務所・店舗等の事業用物件を貸し出している場合は、インボイス発行事業者の登録を検討したほうがよいかもしれません。
インボイス制度は貸し手側・借り手側の双方に適用されるため、インボイスではない請求書を受け取った物件の借り主は、消費税の納税額や計算の負担が増えてしまいます。結果、これから物件を探す事業者は、インボイスを発行してくれるオーナーの物件にメリットを感じるでしょう。平たくいえば、免税事業者でいると競争力が低下する恐れがあります。
また、賃貸経営が軌道に乗ると、節税目的で資産管理会社の設立を検討することがありますが、オーナーが消費税の課税事業者で、委託料を支払う資産管理会社が免税事業者のままでいる場合は注意が必要です。これまで、オーナーは仕入税額控除を利用しながら資産管理会社の消費税は納税しない「益税」を得られましたが、インボイス導入後にその手は使えません。
インボイス制度は2023年から段階的に導入されます。どのように対応するかは所有物件や借主の属性・投資規模などによって異なりますが、判断が難しい場合は税理士に相談してみることをおすすめします。
まとめ
不動産投資の家賃収入にかかる消費税について、非課税となるかどうかや消費税の簡易課税制度の解説、今後始まるインボイス制度への対応など解説しました。居住用物件を扱うだけであれば消費税への対応は不要ですが、将来を含めて、事業用物件を取り扱うのであれば消費税についての知識も身につけておく必要があります。本記事の内容を参考に、必要に応じて税理士など専門家への相談も検討するとよいでしょう。