不動産投資の経費いくらまで落とせる?どこまで計上できる?
目次
投資用物件を運用する上で、経費の範囲についての理解が曖昧なまま進めている方もいるかもしれません。利益の拡大と適切な節税のためにも、経費計上できる範囲や種類を把握することは大切です。
本記事では、不動産投資の経費が認められる限度額、また経費として認められるものとそうでないものの内訳について解説します。これから不動産投資を始めようと考えている方や利益拡大を目指す方は、ぜひ参考にしてみてください。
不動産投資の経費はいくらまで、どこまで認められるのか?
国税庁ホームページでは、事業所得、不動産所得および雑所得の金額を計算する上で、経費(必要経費)に算入できるものを以下のように定義付けています。
- 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
- その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
つまり、経費とは「収入を得るために必要となる費用」または「業務上必要な費用」です。ここではまず、不動産投資における経費の基本を解説します。
(参考: 『やさしい必要経費の知識|国税庁』)
不動産投資に必要な費用は全て経費
不動産投資の経費として認められる費用は、家賃収入を得るために要した費用のみです。プライベートでの使用による費用や、所得税・住民税といった個人に課せられる税金は経費計上できません。
例えば、不動産関係の資格取得にかかる授業料やテキスト代なども、その支出が家賃収入を得ることに直接関係しない場合には、個人的な支出と見なされます。
「その支出が家賃収入を得るために必要不可欠であったか」の判断に迷う場合は、税務署や税理士に相談しましょう。
不動産投資の経費に上限はない
不動産投資の必要経費に法的な上限は設けられていません。ただし、過剰な経費計上は税務調査の対象となる可能性があるため、適正な範囲内に収めることが賢明です。一般的な目安として、一戸建て賃貸住宅では年間25万円前後が相場とされています。
また、雑費が過度に多額である場合、税務署から「使途が不明な支出は何に費やされたのか」「個人的経費ではないか」といった疑義を持たれる恐れがあります。
プライベートに関わる経費は家事按分すること
家事按分とは、不動産投資の経費と私的支出の区分けが困難な場合に、不動産投資への使用割合に応じて必要経費を計上する方法です。例えば、投資用物件の一室を自宅として使用する場合や、物件の下見に自家用車を利用した場合などに適用できます。
「不動産投資として使用した金額」を、使用割合・使用時間・使用面積などの実態に応じて按分しましょう。純粋な家事費は必要経費として認められませんが、業務と私的使用が混在する場合は、業務の使用割合に応じて必要経費に計上可能です。
不動産投資で認められる主な経費
不動産投資で認められる主な経費は主に以下の通りです。
費用名 | 内容 |
借入金の利息 | 不動産投資ローンの借入利息 |
減価償却費 | 建物部分や設備に対する減価償却費 |
税金 | 不動産取得税・印紙税・登録免許税・固定資産税・都市計画税などの各種税金 |
仲介手数料 | 入居者斡旋時にかかる仲介手数料や販売促進費用 |
管理委託手数料 | 不動産管理会社に支払う管理委託手数料 |
建物管理費用 | 原状回復費用や共用部分の清掃や設備の点検費用 |
メンテナンス費用 | リフォーム費用・都度発生する設備故障に伴う交換費用 |
損害保険料 | 火災保険や地震保険・孤独死保険などの保険料 |
司法書士や税理士への報酬 | 税理士や司法書士などへの報酬 |
通信費 | 入居者や不動産会社、管理会社などと連絡を取り合う際の費用 |
情報収集費用 | 不動産の情報収集にかかる費用 |
交際費 | 不動産投資関係者への贈答品や会食にかかる費用 |
交通費 | 物件視察の際の公共交通機関の運賃等 |
旅費 | 遠方のセミナー受講の為のホテルの宿泊費等 |
自動車関連費用 | 不動産投資の運営にかかる自動車関連の利用料 |
その他 | 事務用品の購入にかかる費用や雑費 |
それぞれの経費について次の項目で解説します。
借入金の利息
不動産の購入には多額の資金が必要なため、不動産投資ローンが利用されることが多くあります。ローン返済の利息や事務手数料は必要経費として計上できますが、元本分は経費となりません。例えば月々14万円の返済で、内訳が元本10万円、利息4万円であれば、必要経費は4万円のみとなります。
また、不動産所得は給与所得や事業所得の黒字と収支を相殺できる「損益通算」の対象であり、不動産所得が赤字の場合、他の黒字所得から差し引いて計算をすることで節税対策になります。節税を目的に不動産投資をする際は、損益通算をうまく活用するとよいでしょう。
ただし、不動産投資の運用が赤字の場合、「土地部分の利息は損益通算ができない」という制限があります。
【損益通算の可否(土地部分のローンの利息)】
不動産所得の赤字→×
不動産所得が黒字→○
減価償却費
減価償却とは、時間の経過や使用によって価値が減少する資産を取得したときに、その取得費用を使用可能な年数(法定耐用年数)に分けて計上する会計処理のことをいいます。実際のキャッシュ支出はなくても減価償却費を必要経費にできるため、節税対策の重要な手段となります。
「定額法」を用いた減価償却費の計算式は以下の通りです。
減価償却費 = 取得価格 × 償却率
また、法定耐用年数と減価償却費を求めるのに用いる「償却率」は、物件の構造や使用用途などによって異なり、以下のように定められています。
【法定耐用年数の一例(住宅用)】
構造 | 耐用年数 | 償却率(定額法) |
木造 | 22年 | 0.046 |
軽量鉄骨造(厚さ3mm以下) | 19年 | 0.053 |
軽量鉄骨造(厚さ3~4mm以下) | 27年 | 0.038 |
鉄骨造(厚さ4mm超) | 34年 | 0.030 |
鉄筋コンクリート 鉄筋鉄骨コンクリート造 | 47年 | 0.022 |
1年間で経費計上できる減価償却費は、法定耐用年数が短いほど多くなります。中古物件については「簡便法」と呼ばれる特例の計算方法が適用され、1年当たりの減価償却費が多くなるため節税に有利です。一方、土地は経年による価値の減少がないと見なされており、減価償却の対象にはなりません。
税金
不動産投資の経費として計上できる税金は、主に「購入時にかかる税金」「運用時にかかる税金」の2種類です。税金の概要や税率などをまとめたので、経費を計算する際の参考にしてください。
【購入時にかかる税金】
税金の種類 | 概要 |
印紙税 | ・売買契約書や金銭消費貸借契約書などの課税文書にかかる税金 ・印紙を貼って納税するよう法で定められており、金額は課税文書によって異なる ・順守しないと過怠税を徴収される恐れがある |
登録免許税 | ・不動産登記を行うときに課税される税金 ・登記には「所有権保存登記」「抵当権設定登記」などがある ・新築建物を購入する場合は所有権保存登記の手続きを行う 所有権保存登記の税額:固定資産税評価額×0.4% 抵当権設定登記の税率:固定資産税評価額×0.4% |
不動産取得税 | ・不動産を取得したときに課税される税金 ・税額は固定資産税評価額に税率をかけて算出する(不動産投資で土地を購入する際には軽減措置がある) ・納付時期は納付書が届いたとき(登記後9か月~1年後が一般的) |
【運用時にかかる税金】
税金の種類 | 概要 |
固定資産税 | ・1月1日時点で不動産などの固定資産を所有している方が課税される税金 ・納税先は市町村 ・固定資産税評価額(課税標準額)×税率 |
都市計画税 | ・市街化区域に土地や建物を所有している場合に発生する税金 ・固定資産税と同じく地方税 ・固定資産税評価額(課税標準額)×税率 |
(自動車税・重量税) | ・自動車を所有しているとかかる税金 ・不動産を運営する上で必要な部分のみ経費計上できる ・自動車税(種別割)の税率は排気量により異なる |
(法人事業税) | ・不動産投資事業を運営している法人に課される地方税 ・税率は資本金額により異なる |
仲介手数料
不動産会社に入居者を斡旋してもらうときにかかる仲介手数料や入居者募集を依頼した際の広告宣伝費は、経費として計上できます。ただし、物件購入時にかかる仲介手数料は減価償却費の取得価額となり、一括では経費計上できないため注意しましょう。
【売買契約における仲介手数料上限額】
不動産の取引額 | 手数料の上限(速算式) |
200万円以下 | 取引額×5%+消費税 |
200万円超400万円以下 | 取引額×4%+2万円+消費税 |
400万円超 | 取引額×3%+6万円+消費税 |
【賃貸契約における仲介手数料上限額】
借主と貸主の双方から受領する報酬の合計額の上限:賃料1か月分+消費税
不仲介手数料の金額は不動産会社との媒介契約書や請求書で確認できます。
管理委託手数料
不動産投資の物件管理を管理会社に委託している場合、定期的に支払う管理委託手数料などは経費計上が可能です。
不動産投資を行うオーナー自ら管理していれば発生しない費用ですが、本業がある場合は、管理を委託する場合が多いでしょう。管理会社や管理の委託範囲によって費用はさまざまで、毎月の明細等から確認できます。
建物管理費用
入居者の住環境を良好に保ち、長期入居をしてもらうためにも、不動産投資において適切な管理は欠かせません。共用部分の清掃や設備の点検・保守に定期的にかかる費用も経費になります。
管理業務を管理会社に委託している場合、管理委託手数料として支払っているケースもありますが、消防点検の費用のように管理会社を通さずに支払うものもあります。こういった費用も不動産投資を行う上で必要な管理費に該当するため、経費として計上できます。
また、水道光熱費も経費として認められます。不動産投資物件の共用部分に関してはそのまま経費にできますが、不動産投資に関する作業を行うスペースが自宅内にあるときは、私用との区別、費用按分が必要です。
メンテナンス費用
アパートなどの建物および付帯設備は年数に応じて劣化します。劣化したままだと、入居者から敬遠されるだけでなく居住の安全性にも支障が生じるため、定期的な建物のメンテナンスや付帯設備の交換が必要です。このメンテナンス費用も不動産投資の経費となります。
なお、定期的なメンテナンスに加えて、入居者の退去時の原状回復費も含まれます。ただし、従来の状態よりもグレードアップするメンテナンスの場合、「資本的支出」と見なされることも考えられるでしょう。その場合、一括ではなく減価償却による経費計上となる可能性もあります。
国税庁ホームページに、修繕(メンテナンス)費か資本的支出かを判定する基準の記載があります。判断に迷うときには、税務署に問い合わせてみるとよいでしょう。
- その金額が60万円に満たない場合
- その金額がその修理、改良などにかかる固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
(参考: 『第8節 資本的支出と修繕費|国税庁』)
損害保険料
災害リスクに備えて加入する損害保険料も経費に計上できます。対象となる保険の一例は以下の通りです。
【不動産オーナー向けの保険と特約例】
- 火災保険
- 地震保険
- 施設賠償責任保険
- 家主費用補償
- 孤独死保険
- 家賃補償
この他、家賃の未払いや入居者の死亡事故など、不動産投資特有のトラブルに対応できる保険も販売されており、それらの保険料も経費として認められます。なお、国民年金や健康保険料といった社会保険料は個人にかかるもので、必要経費になりません。
司法書士や税理士への報酬
司法書士や税理士、弁護士といった士業にサポートを受けたときの報酬も経費となります。報酬が発生するケースとしては、司法書士への登記依頼、税理士への確定申告依頼の他、入居者の家賃滞納を巡って弁護士に相談する場合などです。
士業への費用は高額になる場合もありますが、切迫した状態で適切な判断ができるのは士業ならではの魅力といえます。また、資格保持者でないと対応できない問題が起こることもあるでしょう。不動産投資に関わるのであれば経費として認められるため、士業のサポートを活用するのも方法のひとつです。
通信費
不動産投資を行う中で、入居者や不動産会社、管理会社などと連絡を取ることもあるでしょう。そのやりとりに用いる通信手段は経費の対象です。電話料金、インターネットのプロバイダ料金、郵送料はいずれも通信費として計上して構いません。
ただし、私用の通信費まで経費とするのはNGです。何を誰に送るかがはっきりしている郵送料はともかく、電話料金やインターネットの使用量を明確に区分けするのは難しいでしょう。電話は不動産投資で利用する専用端末を用意する、インターネットは不動産投資で利用した時間を記録するなど、何らかのルールを作って按分する必要があります。
情報収集費用
不動産オーナーとして、不動産のトレンドや市場の変化を追うことも大切です。最新情報を収集するには新聞や書籍で勉強したり、セミナーに参加して新しい気付きを得たりする必要があります。また、専門家のコンサルティングを受けるのも勉強になるでしょう。
情報収集にかかる費用も立派な経費といえます。ただし、あくまでも不動産投資に必要なものであることが前提です。第三者に説明を求められてもきちんと説明できるようにしましょう。
交際費
不動産投資を円滑に行うために発生する交際費であれば、経費計上しても問題ありません。不動産オーナー同士の会合や、不動産会社や管理会社の担当者との会食、お世話になっている弁護士などへの贈答品なども交際費として認められます。
しかし、他の経費と同じく、不動産投資に関係ないものを経費計上してはいけません。1人での食事や家族との食事を「打ち合わせ」などと偽るのは止めましょう。
交通費
不動産投資のために要した交通費は経費にできます。バス、電車など、近距離の交通費は領収書が出ないものもありますが、何の目的のために要した交通費なのか、いくらかかったのかをこまめに記録しておきましょう。
旅費
遠方の不動産投資セミナーに参加した際のホテル代など、不動産投資に関わる旅費は経費計上できます。領収書をもらうことを忘れないようにして、何の目的のための宿泊費なのかをメモしておきましょう。
自動車関連費用
不動産投資の運営に自動車を利用している場合、ガソリン代、車検代、メンテナンス費用、自動車税、保険料、レッカー代金といった費用も経費となります。
不動産投資のための専用車ではなく私用車を兼ねているときは、不動産投資のために利用するたびに距離をメモしておくと、各費用の私用との按分計算がしやすくなります。なお、自動車の購入費は減価償却の対象です。
その他
不動産投資に使用するパソコンといった備品、ソフトやアプリの購入代金も経費になります。ただし、パソコンや文房具のように不動産投資以外の目的にも使用できるものの場合、私用との区別、費用按分が必要です。按分が難しいと感じる場合は、使用目的を不動産投資に限定して備品をそろえるとよいでしょう。
不動産投資の経費は特性ごとに把握しよう
不動産投資における経費の範囲は広く、まとめて覚えようとすると少々難しさを感じることがあります。そのため、経費を特性ごとに分けて把握するのがおすすめです。
経費の種類・特性 | 内容 |
手出しがない経費会計時に計上の仕方が変わるもの | ・借入金の利息 ・減価償却費 |
税金 | ・印紙税・登録免許税 ・不動産取得税 ・固定資産税 ・都市計画税 ・自動車税、重量税 ・利子税 ・法人事業税 |
収支シミュレーションに組み込むべき費用 | ・仲介手数料 ・管理委託手数料 ・建物管理費用 ・メンテナンス費用 |
購入時にかかるもの | ・損害保険料 ・司法書士や税理士への報酬 |
公用私用の按分が必要なもの | ・通信費 ・情報収集にかかる費用 ・交際費 ・交通費 ・旅費 ・自動車関連費用 ・その他の費用 |
不動産投資にかかる費用はジャンルごとに分けておきましょう。費用の使用用途や金額、経費計上の可否をすぐに把握でき、計算しやすくなります。
不動産投資で経費として認められないもの
個人に課される税金やプライベートでの支出といった、不動産投資と関係のない費用は経費計上が認められていません。経費として認められていないものを経費計上してしまうと、税務調査で修正を求められるため注意が必要です。ここでは、経費計上できない費用を解説します。
住民税や所得税
住民税や所得税は不動産投資とは関係なく発生するため不動産所得の経費として計上できません。基本的に経費として認められる費用は不動産事業と関連性のあるものだけです。
不動産投資に関係のない私生活に関わる費用
前述の「不動産投資に必要な費用は全て経費」で解説したように、不動産投資に関係のない支出は経費計上できません。例えば洋服や腕時計、バッグといったファッションアイテムを不動産会社や管理会社との打ち合わせで使うようなことがあっても、不動産所得の経費にはなりません。
また、青色事業専従者との慰安旅行にかかる費用やプライベートでの飲食費、スポーツクラブに入会した際の会費、生計をひとつにする配偶者やその他の親族に支払う給与も個人的な支出と見なされます。なお、家族以外の従業員においては、一部費用を福利厚生費として認められる可能性があります。
不動産投資の経費計上で効果的な節税を
節税に有効な経費は減価償却費です。不動産所得の赤字は他所得との損益通算が可能で、所得金額が減少すれば税額も軽減します。減価償却費のメリットは、実際の現金支出を伴わずに経費計上できる点です。多額の赤字は資金繰りを圧迫しますが、減価償却費の活用によりリスクをおさえつつ、節税効果が得られます。
ただし、減価償却費は建物の構造や経過年数によって償却期間が変わるため注意が必要です。節税の視点から、多額の減価償却費が見込める物件を選ぶことが重要です。
なお、不動産所得がある場合は確定申告の義務があり、以下の手順で行います。
- 前年1月1日〜12月31日の収入・支出を集計し、確定申告書を作成
- 通常、2月16日〜3月15日に申告書を提出
- 申告後、納税
期限までに申告・納税を済ませないと、延滞加算税が課されるリスクがあるため注意しましょう。
まとめ
不動産投資において、経費として落とせる費用にはさまざまなものがあります。中には、自動車関連費用や光熱費のように公用私用で按分しなければならない費用もあるため注意しましょう。また、経費を増やせば所得が減って節税効果が期待できますが、キャッシュフローにも目を向けることが大切です。
不動産投資の目的は人によって異なるものの、安定した収益を上げることを重視する方がほとんどでしょう。節税に目を向けることも大切ですが、節税が主目的になると、還付される税金以上に経費がかかるという事態を招きかねません。支出を伴う費用は不動産投資に必要な最小限の費用にとどめるようにしましょう。
不動産投資は見通しを立てやすい投資です。目先だけでなく、長期的視点を持った安定的な投資を目指しましょう。