不動産投資におけるIRRとは?メリットやデメリット、活用方法を解説!
目次
不動産投資を検討するなかでIRRやNPVといった言葉を見聞きした方もいるのではないでしょうか。不動産投資における具体的な収支シミュレーションを行う際にはIRRやNPVについての理解が必要です。
今回は「IRRやNPVを用いるメリット・デメリット」や「活用方法」を解説します。「IRRにはどんな意味があるのか」を理解するために、IRRの定義や計算方法を知りたい方は本記事を参考にしてください。
IRRとNPVの概要
IRRとは投資案件の収益性を評価する指標のひとつです。IRRやNPV(正味現在価値)の概要とそれぞれの違いについて次の項目で解説します。
IRR(内部収益率)とは?
IRRとは投資にかかる支出と得られるキャッシュフローにおける現在価値の総和が等しくなる「割引率」を意味し、簡単にいうと投資の効率性を測る指標です。同じ金額を回収できる投資でも、短い期間で利益を得られるほどIRRは高くなります。早期にキャッシュフローをプラスにできれば再投資によってさらに資金を増やせるため、IRRが高いほど効率性の高い投資といえます。
IRRでは「お金の現在価値」が重要な考え方です。たとえば今100万円をもらえるのと1年後に100万円をもらえるのとでは、お金を使える機会が増えるため多くの方がすぐに100万円をもらえるほうを選択する傾向にあります。つまり、現在の100万円と1年後の100万円では今すぐ受け取れる100万円のほうが価値は高いとされているのです。
また、100万円を年利3%で運用して1年後に得られるお金が103万円である場合、将来得られる103万円を100万円の「将来価値」といい、反対に将来得られる103万円を「現在価値」に置き換えると100万円になります。したがってIRRを基準に考えると投資対象や投資期間が異なる商品であっても収益率の比較が可能です。
NPV(正味現在価値)との違いは?
IRRとNPVの概要は以下の通りです。
- IRR:収益率を測る指標
- NPV:収益額を測る指標
NPVとは投資で得られるキャッシュフローの現在価値から必要な支出額を引いた値であり、収益額(有効性)を測る基準として用いられます。NPVがプラスであれば有効な投資先であり、マイナスであれば避けるべき投資先と判断できます。収益率も収益額も大きいほど投資先として魅力的ですが、どちらも兼ね備えている物件はそれほど多くありません。
投資する際は個別の事情に合わせて優先する項目を絞ります。たとえば投資に使える資金に限度がある場合はIRRを重視して検討すると収益率は上がり、限度をあまり気にしなければNPVを優先して収益額を大きく伸ばせる可能性が高まります。
お金は早くに得るほど価値が高いため収益率を重視して資金の回収速度を上げましょう。早いサイクルで回収できればお金を再投資に回せます。
IRRのシミュレーション方法
不動産投資で利益を獲得するにはIRRのシミュレーションが大切です。不動産投資におけるIRRのシミュレーション方法と具体例を次の項目で解説します。
具体例からシミュレーション
IRRへの理解を深めるため具体例をもとにシミュレーションします。これから不動産投資を始めようとしている方は、購入を検討している物件の条件に合わせて実際にIRRを計算してみましょう。
IRRの計算式は以下の通りです。
なお計算式に出てくる記号の意味は以下の通りです。
- C0:初期投資額
- C1~n:1~n年目のキャッシュフロー総額
- r:IRR
シミュレーションでは3,000万円の不動産を購入し、3年後に購入時と同額の3,000万円で物件を売却すると仮定して計算します。なお、保有期間中の利回りは1〜3年目とも5%です。
初期投資 | - 3,000万円 |
1年目 | 3,000万円 × 5% = 150万円 |
2年目 | 3,000万円 × 5% = 150万円 |
3年目 | 3,000万円 × 5% + 3,000万円 = 3,150万円 |
これらをIRRの計算式に当てはめるとIRRは5%になります。
IRRはキャッシュフローの現在価値をもとに計算するため、複数の不動産を検討する場合は投資初期からプラスのキャッシュフローになる物件のほうがIRRは高くなる傾向にあります。また、IRRはExcelなどの表計算ツールでIRR関数を活用すると簡単に計算できるため、不動産投資を検討している方は自分でシミュレーションしてみましょう。
IRRが高い物件の特徴
不動産投資は借入金額や築年数、物件の種類、エリアなどにより収益率は変わるためIRRも状況や条件によって変動します。たとえば法定耐用年数を過ぎている築古物件の場合、短期間で減価償却が大きくなるためIRRが高くなるのが一般的です。
また、物件の資産価値が下がりにくく、売却時に高値で売れる物件はIRRが高くなります。購入時と大差ない値段で売却できる、もしくは購入時よりも高値で売却できそうな物件を選ぶと収益性の高い投資を実現できます。
不動産投資では保有期間中のキャッシュフローが大切です。早期にキャッシュフローをプラスにできればIRRも高まるため、ローンの返済期間を長期間にして月々の返済額をおさえるといった方法も有効です。一方でキャッシュフローが良い物件であっても売却時に価格が大きく下落しているとIRRも低くなってしまうため慎重に物件を選ぶ必要があります。
IRRのメリット
不動産投資を検討する際、IRRを用いるとどんなメリットがあるのか気になる方は多いでしょう。そこでIRRのメリットは以下の2つが挙げられます。
- 時間から価値の差を比較できる
- 割引率やコストを考慮しなくていい
IRRを活用するメリットを次の項目から詳しく解説します。
時間から価値の差を比較できる
IRRは投資期間を通しての収益率を算出できるため、時間的価値を加味したうえで優れた投資対象を見つけられます。同じ収益を得られる物件であっても、早期に資金を回収できる物件の方がIRRの数値が大きい傾向にあります。
とくにIRRを重視するべきなのは不動産投資の目的でキャッシュフローの改善を重視している方です。将来の年金対策で不動産投資をしている方は早期にキャッシュフローを改善する必要はさほどありませんが、月々のキャッシュフローを改善して自由に使えるお金を増やしたい方はIRRが大切です。
お金は早く得たほうが使える機会が増えるため、早期に回収できるほうが価値は高くなります。そのため、IRRの高い不動産への投資で不動産投資における目的を達成しやすくなるのです。
割引率やコストを考慮しなくていい
IRRは見込み収益と投資額さえ分かれば計算できるため、不明確な割引率やコストなど考慮する対象が少なく計算結果もひとつに定まりやすいです。考慮する対象が少なくなると異なる投資対象や投資期間であっても客観的に収益性を比較できます。たとえば不動産と株式、債券などが該当します。
また、収益性を示す値として一般的であるのは利回りですが、あくまでも単年の収支をもとにした数字でしかありません。IRRは投資期間が何年であろうと見込み収益と投資額さえ明確であれば投資対象の収益性を測れるため、不動産投資のように毎年キャッシュフローが変化する投資対象と相性がよいのが特徴です。
IRRのデメリット
IRRは収益率を算出でき、計算がしやすいというメリットがある反面、忘れてはいけない欠点もあります。IRRのデメリットには以下の2つが挙げられます。
- 投資規模を考えられない
- 答えが出ないときがある
IRRを活用するデメリットを次の項目から詳しく解説します。
投資規模を考えられない
IRRは投資期間全体の収益率を測る指標としては優れていますが、全体の収益額は考慮していないため投資規模を把握できません。投資では収益をプラスにするだけでなく、利益の最大化を重視する必要があります。
また、IRRが高い物件だからといって良い投資先とは限らない点に注意が必要です。IRRだけに注目すると収益率の値が低い反面、収益額が大きい優れた投資先を見逃してしまう恐れもあります。投資する際はいくらの収益を得たいのかを利益額をシミュレーションしてから投資先を選ぶ点が大切です。利益の大きさを測る際はNPVが有効な指標となるため、IRRとNPVを使い分けて判断しましょう。
NPVのメリット・デメリット
収益額が大きい不動産投資をしたい場合は、NPVが重要な指標となります。投資に回せる資金が潤沢にある方ほど、NPVを重視することで収益額を大きく伸ばせるためです。
次の項目ではNPVの概要やメリット・デメリットを解説します。
NPVとは
NPV(正味現在価値)とは、将来発生するキャッシュフローの現在価値から投資額を引いたもので、その投資でどれだけの利益を得られるかを示す指標です。
NPVの計算式は以下の通りです。
正味現在価値NPV= 現在価値PVー 投資額 |
※PV = 将来受け取る金額 ÷ (1 + 割引率)^n年後 |
NPV > 0である場合、投資価値があると判断できます。NPVが大きいとまとまった収益を得られるため、投資規模を重視する際はNPVが大きいほうが良いとされます。反対にNPV < 0の場合は投資を避けたほうが良い案件であると判断可能です。
NPVのメリット
NPVのメリットは以下の3つです。
- 時間的価値を踏まえて計算できる
- 投資規模を考慮できる
- 割引率にリスクやリターンを組み込める
NPVはIRR同様に時間的価値を踏まえて収益額を計算できるため、異なる投資先であっても将来得られる収益額を同じ尺度で比較検討できるのが特徴です。
また、投資の価値を優先しつつ収益額を基準にするため、少額の投資先が過大評価される事態を避けられます。投資において収益率の高さは重要ですが、純収益を現在価値に換算すると投資による純収益額の見積りも可能です。
さらにNPVでは割引率にリスクやリターンを組み込めるのもメリットです。NPVは割引率の設定で計算結果が異なり、リスクの高い投資先であれば数値を高く設定して計算します。
なるべくリスクをおさえた投資がしたい場合は個人の資産状況などを加味し、あえて本来の割引率よりも高く設定すれば現在価値を低く見積ることが可能です。したがってNPVは投資家それぞれの投資状況を反映できるメリットがあります。
NPVのデメリット
一方、NPVのデメリットは以下の3つです。
- 割引率の設定に注意が必要
- 中長期的な視点での計算に不向き
- すでに投資している案件の管理には不向き
NPVでは現在価値を求める際に割引率を設定しますが、計算結果には明確な正解がないため式に入れる数値には注意が必要です。計算結果を左右する割引率は自分で設定しなければならないため、投資の知識がなく現実的ではない値を設定してしまうと適切な判断ができなくなる恐れがあります。
また、NPVは短期的な視点で投資するべきかどうかを判断する指標であるため、中長期的な視点での計算に不向きです。中長期的に見れば利益が出るような投資であってもNPVだけを見ると投資に適していない数値になり、見落としてしまうケースが多くあります。不動産投資は中長期的に運用するため必ずしもNPVでの計算が適しているわけではない点に気をつけておきましょう。
さらにNPVは投資を行うかどうかの判断基準としては有効ですが、すでに投資している案件の管理にも向いていません。過去にさかのぼって現在価値を求めるのは煩雑な計算になるため、NPVは新たに物件の購入を検討する際に活用することをおすすめします。
IRRとNPVはどう使い分ける?
【NPVを使う場面】
- 投資するべきかどうかを判断したいとき
- 複数の投資先を比較検討するとき
【IRRを使う場面】
- 予算に限りがあり収益率を重視した投資をしたいとき
- ひとつの投資先を掘り下げて検討するとき
不動産投資で大切なのは利益を最大化することです。NPVが0より大きければ投資価値があると判断でき、小さければ投資を避けたほうが良いと判断できます。
一方で、IRRはひとつの投資先を掘り下げて考える場合に有効です。IRRでは収益率が明確化するため具体的なシミュレーションを考えられます。とくに予算に限りがあり、できるだけ資金効率を高めたい場合は収益率の高い投資先を選ぶと再投資にお金を回せます。
それぞれの特徴を理解した上で使い分けや併用をすると、自分に合った投資先を選ぶために役立ちます。
不動産投資におけるIRRの活用のポイント
不動産投資ではIRRをどのように活用すればいいのか分からない方も多いでしょう。不動産投資におけるIRRの活用ポイントは以下の通りです。
- 物件の特徴からIRRが高いか判断する
- IRRが高ければリスクも高い
- IRRだけを判断基準としない
不動産投資における3つのIRR活用方法を次の項目で解説します。
物件の特徴からIRRが高いか判断する
不動産投資では物件の特徴からIRRが高いかどうかを判断しましょう。物件探しにおいてすべての不動産のIRRを求めるのは現実的ではありません。そのため、事前にIRRが高い物件の特徴を知っておくとスムーズに物件を探せます。
IRRが高い物件の特徴は以下の2つです。
- キャッシュフローが早い段階でプラスになる物件:高利回り物件や築年数が経過しており短期間で減価償却費を計上できる物件など
- 高値での売却が期待できそうな物件:駅までの距離が近く利便性の高いエリアにある物件など
IRRの高い物件をおさえれば投資先の候補を絞り込みやすくなります。
IRRが高ければリスクも高い
IRRが高いほど投資リスクも高くなると判断できます。
IRRには「エクイティIRR」と「プロジェクトIRR」の2種類があり、特徴は以下の通りです。
- エクイティIRR:自己資金のみを初期投資として計算したIRR
- プロジェクトIRR:投資総額(借入金 + 自己資金)から計算したIRR
不動産投資で用いられるIRRの多くは「エクイティIRR」です。つまり自己資金が少なく、ローンの割合が多いほどIRRは高くなります。また、ローンの割合が増えると月々の返済額も増えるため注意が必要です。
IRRだけを判断基準としない
収益率が高い物件が優れた投資先とは限らないため、IRRだけを判断基準としないよう注意しなければなりません。
なるべく短期間で投資資金を回収してほかの投資先へ再投資したい場合は、IRR収益率の高い物件がおすすめです。一方で、老後の年金代わりに不動産投資をするなど長期的な資産形成を検討している場合は、IRRが低いとしても新築物件や築浅物件のほうが適切です。また、すぐに物件を売却する予定がある場合にもIRRを参考にしないほうが良いでしょう。
投資の目的によって何を基準にするかは異なるため、IRR以外の要素も確認したうえで物件を選ぶことをおすすめします。
まとめ
IRRとは投資資金をいかに効率的に運用できるかを測る指標です。IRRが高い物件ほど収益率が高く、早い段階で投資資金を回収できます。しかしIRRが高いからといって優れた投資先であるとは限らないため収益率だけで投資を決めるのはリスキーといえます。
また、投資の目的によってはIRRが低い物件を選んだほうがいい場合もあります。不動産投資にかかるほかの数値や資金をもとにIRRの詳細なシミュレーションをしたい場合は不動産会社に相談するのがおすすめです。
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