こんな人には不動産投資の法人化がおすすめ!注意点や設立手順も解説
目次
不動産投資における法人化とは、個人資産を管理するための資産管理会社を設立することです。法人化すると個人事業主ではなく会社経営者として不動産投資を遂行することになり、所得金額によっては節税につながるなどのメリットが得られます。
専業大家だけでなくサラリーマンが副業として不動産投資を行う際も、税金対策を目的に法人化が検討されるケースが少なくありません。一方で、所得によっては法人化しないほうがよい場合があるため、メリットとデメリットを正しくおさえておきましょう。
この記事では、不動産投資で法人化したほうがよい方の特徴や、法人化に適したタイミングを紹介します。これから不動産投資を始めようと考えている方や、不動産投資が軌道に乗り始めた方はぜひ参考にしてみてください。
不動産投資で法人化したほうがよい人
不動産投資を行っている方であれば誰でも法人化が成功するとは限りません。では、どのようなケースで法人化を目指す必要があるのでしょうか。ここでは、不動産投資で法人化したほうがよい方の特徴を3つ紹介します。
給与所得と不動産所得の課税所得の合計が年900万円を超えるサラリーマン大家
法人化に適した方の特徴として代表的なのが、給与所得と不動産所得の合計の課税所得の合計が年900万円を超えるサラリーマン大家です。課税所得が900万円を超える場合、所得税と住民税を合わせると税率は43%になります。
個人の所得にかかる税金は累進課税であり、900万円超の所得に課される税率は33%です。対して、法人税の税率は資本金額や法人の種類によって異なるものの、最高でも23.20%しかかかりません。住民税や事業税と合わせても税率は34%にとどまるため、節税効果が得られます。
不動産所得のみが年330万円を超える専業大家
不動産投資を専業とする方で所得が330万円を超える場合も、法人化に適したケースのひとつです。仮に所得が331万円とすると、個人にかかる税率は所得税と住民税を合わせて30%となりますが、法人化すると法人税・住民税・事業税を合わせて約22%におさえられます。
ただし、所得が330万円以下であれば個人にかかる税率は20%です。法人にかかる税率より負担が軽いため、節税を重視するなら個人のままでいるほうがよいでしょう。
複数の収益物件を経営・拡大していく予定の方
これから不動産投資の規模拡大を目指したいと考えている方は、初めから法人化するのも方法のひとつです。個人名義で不動産投資を始めて後から法人化するとなると、2回手続きが必要となり作業の手間がかかります。
また、不動産取得税と登録免許税も2回ずつ納めなければなりません。司法書士に手続きを委託する場合は、その費用もかかります。初めからある程度の事業規模にしたいと見込んでいるなら、法人化を検討してもよいでしょう。
不動産投資の法人化は検討しなくてよい人
法人化には設立のための費用(登録免許税や各種手数料)等のコストがかかるため、以下のような法人化するメリットの無い場合は、検討しなくてよいといえます。
不動産所得が会計上赤字で、給与所得が年900万円を超えるサラリーマン大家
給与所得が年900万円を超え、所有している不動産が会計上赤字の場合は、個人で物件を持ったほうがよいでしょう。不動産投資での会計上の赤字と個人の所得を損益通算することによって、課税所得を圧縮することができるため、所得に対してかかる税金を減らすことができます。
不動産所得が年330万円以下の専業大家
専業大家で不動産所得が330万円以下の場合は、個人の税率は20%、法人の税率は15%で個人税率>法人税率となりますが、法人設立のための費用を考えると法人化しないほうがよいといえます。
以上から、必ずしも法人化すれば節税効果を見込めるとは限らず、法人化に適しているかどうかは運用状況や個人の所得金額によって異なります。自身のケースにおける費用対効果を計算しながら、適切に判断しましょう。
不動産投資を法人化するかどうかは税金額の計算次第?
個人にかかる税額は「物件保有時の所得税額」と「物件売却時の譲渡税額」から計算します。それぞれをA・Bとします。
A.所得税額を計算
(年間給与所得+不動産所得)×個人の所得税・住民税率
B.譲渡税額を計算
{売却時の物件価格-(取得時の物件価格-物件保有期間の累計減価償却費)}×税率(長期譲渡:20%、短期譲渡:40%)
対して、法人税額の計算に必要となるのは、「個人の年間給与所得にかかる所得税額」と「不動産所得にかかる法人税額」「物件売却時の譲渡税額」です。それぞれをC・D・Eとします。
C. 個人の年間給与所得にかかる所得税額を計算
年間給与所得×所得税・住民税率
D. 不動産所得にかかる法人税額を計算
不動産所得×法人税率
E. 物件売却時の譲渡税額を計算
{売却時の物件価格-(取得時の物件価格-物件保有期間の累計減価償却費)}×23%
以上を計算した結果、「(A×保有年数)+B > {(C+D)×保有年数}+E」になれば法人化に適しています。自身で計算することに難しさを感じた場合は、税理士や不動産会社に相談しましょう。
不動産投資で法人化するメリット
不動産投資を法人化して行うと主に以下のメリットを受けられます。
- 節税効果が高い
- 繰越損失の期間が長くなる
- 決算月を任意で決められる
不動産投資を法人化して行うメリットを次の項目から詳しく紹介します。
節税効果が高い
不動産投資で法人化するメリットは個人事業主と比較して高い節税効果が期待できるためです。納付する税金が少なくなると実質利回りは高くなり、より多くの収益が得られるようになります。
個人事業主の場合、所得税と住民税を合わせた税率は最大55%(所得税5%~45%+住民税10%)です。法人化すると実効税率は20%~30%台と低くなるため、高い節税効果が得られます。
さらに、令和元年9月まで43.2%の税率で課税されていた「地方法人特別税」が廃止されているため、所得によっては法人化で大幅な減税効果を得られるでしょう。
繰越損失の期間が長くなる
繰越損失の期間が長くなると、個人事業主よりも節税効果が高くなる点も法人化するメリットです。繰越損失とは損益通算しても、赤字になる年度の損失を以降の複数年にわたって繰り越せる制度を指します。
個人事業主でも青色申告すると損失は最大3年間繰り越しできますが、白色申告ではできません。一方で、法人化すると最大10年間の繰り越しが可能であり、個人事業主よりも長期に及ぶ節税効果が得られます。
経費として計上できる範囲が増える
法人で不動産を所有している場合、個人で所有しているよりも経費として計上できる費用の種類が多くなります。例えば、家族を法人の役員に選任したと仮定しましょう。給与を役員報酬として支払えば経費計上できるため、法人の課税所得を圧縮し節税しつつ、世帯の手残り収入を増やせます。
ここでのポイントとしては、報酬の支払い対象は所得税率が低い方へすることです。個人では費用計上できない項目を経費計上することで、節税をしながら、世帯の可処分所得を上げられるという点が法人のメリットとなります。
不動産投資で法人化するデメリットや注意点
不動産投資を法人化するとさまざまなメリットがある一方で、以下のデメリットがあるとおさえておかなければなりません。
- 法人の維持費用がかかる
- 設立手続きが必要
- 長期譲渡所得の優遇税制は利用できない
不動産投資を法人化して行うデメリットを次の項目から詳しく紹介します。
法人の維持費用がかかる
不動産投資での法人化をするデメリットは、税理士に対する報酬などの維持費用がかかる点です。法人は個人事業主よりも税務処理や会計処理が複雑であり、税理士に記帳代行や申告代行を依頼すると顧問料や決算報酬などの費用がかかります。
税理士顧問料は月額3万円程度が相場です。顧問料のほかに決算報酬として別途20万円程度かかるといわれています。合計で年額50万円以上の費用が必要です。なお、報酬金額は税理士によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
設立手続きが必要
法人化するには複雑な設立手続きが必要になります。法人化して会社を設立するには設立登記申請書・定款・代表取締役等の就任承諾書などの書類の作成や、印鑑作成、公証役場、法務局への書類の提出などさまざまな手続きが必要です。
設立手続きは3日以内で終わる場合もありますが、2週間程度はかかると考えておきましょう。一方で、個人事業主は税務署に開業届を提出するだけで簡単に開業できます。個人事業主の開業手続きは30分程度で済むため、法人のほうが圧倒的に時間と手間がかかります。
長期譲渡所得の優遇税制は利用できない
法人化すると長期譲渡所得の優遇税制が利用できなくなる点もデメリットです。保有期間が5年を超える物件を売却する際には個人事業主よりも税率が高くなります。
個人事業主は長期譲渡所得の優遇税制が受けられるため、5年超で売却する際の税率は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)です。一方、法人は長期譲渡所得の優遇税制が受けられず、税率は39.63%(所得税30.63%、住民税9%)と個人事業主よりも2倍近く高くなります。
家族へ支払う給与の額にも妥当性が必要
法人化した場合、家族を役員において報酬を支払えば役員報酬として経費に計上できるため、節税に有効です。ただし、法人化したからといって、個人で経営するよりも多くの給与を支払えるとは限りません。法人による給与の支払い額として認められる金額は、おおよそ年間36万円以上100万円未満であるといわれています。
一方、個人の専従者として雇う場合、配偶者への支払いとして認められる費用の目安は年間86万円です。支払える給与の金額には大差はありません。また、あまりにも高額な支払いがあると「妥当でない」と見なされることもあるため、注意しましょう。
不動産投資で法人化をする適切なタイミング
不動産投資で法人化を考える適切なタイミングは、個人に課せられる税額よりも法人税額のほうが安くなるときやその見込みがあるときです。例えば、会社員の方で課税所得が900万円以上になる場合や、専業で不動産投資をする所得330万円以上の方などは法人税のほうが安くなります。
また、法人のほうが節税効果を見込める点もメリットのひとつです。法人化し、一定の条件を満たせば消費税が還付されるため数百万円単位でお金が戻ってくる可能性があります。特に、数千万円~数億円程度の事業規模が見込める場合は、初めから法人化しておくとよいでしょう。
不動産投資で法人化する手順
不動産投資で法人化するためには必要な書類を集め、税務署に届け出をする必要があります。法人化するための一連の流れを次の項目から紹介していきます。
設立事項の決定や準備
不動産投資で法人化する際は本店所在地や事業目的、資本金などを決めることから始めます。設立事項の決定や準備の所要期間は、4日~1週間程度が一般的です。同時に、代表者印や社印、銀行印などを作成する必要があります。
定款作成と認証
設立事項の決定や準備が終われば、定款作成と認証が必要です。定款とは会社を運営していく上での基本的規則を定めたもので、公証人の認証を受ける必要があります。定款作成は司法書士に依頼するのが一般的で、認証後に資本金を払い込みましょう。
登記書類作成と申請
資本金を払い込んだら、次は登記申請書類を作成して法務局に申請する必要があります。登記申請手続きは煩雑であるため、司法書士に依頼するのが一般的です。作成と申請を合わせると登記手続きが完了するまでには9日~2週間程度かかります。
開業届を提出
最後に税務署に開業届を提出すると法人化は完了です。なお、開業届と一緒に青色申告承認申請書を提出すると「欠損金の繰越控除」が受けられます。欠損金の繰越控除を受けると決算で赤字が発生した場合でも10年間にわたって利益との相殺が可能です。
まとめ
不動産投資で法人化を検討する場合は、「自身では法人と個人どちらの税率が低くなるか」をポイントに考えましょう。
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