不動産投資のデッドクロスとは|発生する原因と対策を解説
目次
不動産投資を検討している方のなかには、さまざまなリスクに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。不動産投資にはさまざまなリスクがありますが、なかでも注意しなければならないのが「デッドクロス」です。
本記事ではデッドクロスの意味や発生する原因、対策について解説します。不動産投資のリスクを把握し、軽減したいと考えている方はぜひ本記事を参考にしてみてください。
デッドクロスとは
デッドクロスの概要を解説します。デッドクロスとは何か正しくおさえましょう。
デッドクロスの意味
不動産投資のデッドクロスとはローンの元金返済額が減価償却費を上回ることです。
デッドクロスが発生しても家賃収入は変わらないため、帳簿上は黒字経営ができているように見えます。一方で、経費計上できる減価償却費が減ると所得税・住民税の課税対象額が増えるため、手元に残るお金が減り、資金繰りが悪化してしまっている場合があります。デッドクロスが続くと最悪の場合は黒字倒産する事態も考えられます。
デッドクロスの仕組みを理解するには「ローンの元金返済」と「減価償却費」の会計知識を身につける必要があります。
実態 | 会計上の処理 | |
ローンの元金返済 | ・ローン返済の内訳は「元金+利息」に分かれる ・元金も利息も実際に現金を支出する | ・利息分の返済は帳簿に記載するが、元金分は記載しない |
減価償却費 | ・不動産取得時の経費を数年に分けて計上する ・毎年実際の支出が発生するわけではない(帳簿上の経費) | ・毎年帳簿に記載する |
不動産を運用していくなかで経費にできないローンの元金返済が徐々に増え、減価償却費が減っていくとデッドクロスが発生します。
投資物件によりデッドクロスになる可能性が異なる
デッドクロスになる可能性は投資物件の減価償却期間によって大きく異なり、以下の要素が影響します。
- 築年数
- 物件の構造(木造や鉄筋コンクリート造など)
物件が新築物件である場合は法定耐用年数の期間中であれば毎年減価償却が発生するため、デッドクロスが発生するリスクは低いといえます。一方で中古物件で不動産投資を行う場合は減価償却期間が短いため、デッドクロスが発生しやすい点には注意しなければなりません。
また、物件の法定耐用年数は構造によっても変化することをおさえておきましょう。鉄筋コンクリートなど丈夫な素材で建築されている場合は法定耐用年数が長く、それに伴って減価償却期間も長くなります。一方で木造の場合は法定耐用年数が短く、減価償却期間も短いためデッドクロスは発生しやすくなります。
築古かつ木造の物件を購入する場合は特に減価償却期間が短くなるため、必ずデッドクロスの発生を想定したキャッシュフローを考えておきましょう。
なお、中古物件は短期間で減価償却されるため、1年あたりで経費計上できる減価償却費が高額になるため、節税対策として有効な手段になります。
不動産投資物件でデッドクロスが起きる理由
不動産投資物件でデッドクロスが起きるのは、主に以下の3つの理由があります。
- 減価償却期間を過ぎると減価償却できなくなるため
- ローン返済が進むと経費計上できる利息の割合が減少するため
デッドクロスを回避するためには物件選びが大切です。詳しくは次の項目から紹介していきます。
減価償却期間を過ぎると経費計上できなくなるため
不動産投資でデッドクロスが起きる理由は時間の経過によって減価償却費を経費計上できなくなるためです。
減価償却費の計算には定額法と定率法の2種類がありますが、いずれの方法でも償却期間が終了すると経費計上できなくなってしまいます。
減価償却期間が終了すると、不動産から得られる収益が同じであっても帳簿上の利益(課税所得)が増えることとなり、伴って所得税・住民税の金額が増え、キャッシュフローの悪化につながります。
減価償却費を経費計上「できる場合」と「できない場合」の比較は以下の表の通りです。なお、いずれも給与所得は900万円でシミュレーションしています。
A:減価償却期間内 | B:減価償却期間終了後 |
売上:120万円 減価償却費以外の経費:20万円 減価償却費:40万円 | 売上:120万円 減価償却費以外の経費:20万円 |
給与所得:900万円 不動産所得:60万円 課税所得:960万円 所得税:163万2,000円(税率33%) | 給与所得:900万円 不動産所得:100万円 課税所得:1,000万円 所得税:176万4,000円(税率33%) |
いずれも実際のお金の動きでは手元に100万円の現金があります。しかし、帳簿上の利益が大きくなるほど課される税金が増えるため、Bのほうが手残り資金が少なくなります。
ローン返済が進むと経費計上できる利息の割合が減少するため
ローン返済が進むことで経費計上できる利息の割合が減少するのも、デッドクロスが起こる要因です。
ローン返済の内訳は「元金+利息」であり、経費計上できるのは利息部分のみです。そして、ローンは返済を続けると徐々に利息部分の割合が少なくなるため、同じ収益であっても課税対象金額は増えてしまいます。
ローンの返済方法には元利均等返済と元金均等返済がありますが、いずれにしても返済額に占める利息の割合は徐々に少なくなります。
元金均等返済の場合は徐々にローンの返済額が少なくなるため、収益が一定であれば徐々に手残り資金の増加も期待できるといえます。
一方で、元利均等返済は支払額が一定ですが、徐々に経費計上できない元金の割合が増えるため節税効果が薄れていき、デッドクロスになりやすいといえます。減価償却期間を超える長期間のローンを組む場合はデッドクロスが起こる可能性が高くなる点に注意しましょう。
デッドクロスの対処法と注意点
デッドクロスの発生によって失敗しないためには、あらかじめ以下の注意点・対処法をおさえておくと安心といえます。
- 長い償却年数の物件を選ぶ
- 可能な限り多くの頭金を投入する
- タイミングを見て売却する
- 新規物件の購入で経費を増やす
- 申告は青色申告で行う
対処法と注意点を理解して不動産投資を始めることで、デッドクロスのリスクを避けられるでしょう。
長い償却年数の物件を選ぶ
減価償却できる期間が長い物件を選ぶとローンの元金返済額が減価償却費を上回るのを防ぎやすくなるため、デッドクロスへの対策となります。
また、減価償却期間が長いとデッドクロスが発生するまでに時間があるため、ローンの借り換えや売却などの事前準備に時間が取れます。
デッドクロスの状態に陥るとキャッシュフローが悪化するため、手元の自己資金に余裕がない場合はすぐに売却を検討しなければなりません。余裕のない状態での売却は価格よりもスピード重視になってしまうため、希望価格で売却できない可能性もあります。
不動産投資を行う際には築年数が浅い物件や法定耐用年数が長い鉄筋コンクリート造などの物件を選ぶのも手段のひとつとしておさえておきましょう。
なお、法定耐用年数が長い物件にも注意すべき点はあります。1年あたりで経費計上できる減価償却費は減価償却期間が長いほど少なくなります。そのため、法定耐用年数が長い物件は節税対策としては向かないとおさえておきましょう。
可能な限り多くの頭金を投入する
可能な限り多くの頭金を投入するとローンの借入額(元金)を減らせるため、デッドクロスのリスクを軽減できます。また、頭金を多く投入すれば支払う利息も少なくなるというメリットがあります。
不動産を運用中であっても繰り上げ返済を行うとデッドクロスが発生するリスクを減らすことができます運用開始後にデッドクロスの発生が予測された場合には、得られたキャッシュフローで繰上げ返済を行うのもいいでしょう。
上記のようにデッドクロスは購入後にも対策はできますが、購入前から備えていたほうが安心といえます。なお、デッドクロスの発生は「ローン返済額」と「減価償却費」をもとにシミュレーションを行えば予測できます。物件購入前から綿密にシミュレーションを行い、デッドクロスを「発生させない」、あるいは「発生を見据えた」資金計画を立てておきましょう。
タイミングを見て売却する
デッドクロスの発生が予測された際にはタイミングを見て売却するのも対策のひとつです。
不動産投資ではデッドクロスが発生する前に不動産を売却し、得た資金をもとに違う物件を購入する「資産の入れ替え」を行うのが一般的です。
経済情勢によっては購入した金額よりも高い金額で売却できる可能性もあります。一方で、購入時よりも明らかに安い金額での売却となった場合は、家賃収入を含めた投資全体の収益が赤字になってしまうため注意しましょう。
不動産売却して利益が出た際には、以下の税率の譲渡所得税を納めなければなりません。
- 短期譲渡所得税(所有期間5年以下):税率39.63%
- 長期譲渡所得税(所有期間5年超):税率20.315%
所有期間によって税率が大きく異なるため、長期譲渡所得税が適用されるタイミングで売却するのがおすすめです。
新規物件の購入で経費を増やす
新規物件を購入すると経費が増えるため、デッドクロスへの対策になります。
物件を複数所有している場合はすべての家賃収入と支出を合算します。つまり、1つの不動産でデッドクロスが発生していたとしても、ほかの不動産を購入して減価償却費を増やすことで、相殺が可能です。
なお、物件の買い増しはデッドクロスを回避しているのではなく先延ばしである点には注意が必要です。また、複数の物件の運用は資金力がないと難しいため、誰にでもできる方法ではありません。
資金的に1つの不動産を所有するのが限界である場合は、デッドクロスになる前に買い替えや売却を行うのもひとつの手段です。
申告は青色申告で行う
節税効果を最大限に発揮するためにも、確定申告は青色申告で行いましょう。
青色申告を行うと特別控除により10万円または55万円(もしくは65万円)の控除が適用されます。また、事業に携わっている家族に対する報酬は青色申告者の所得から控除が可能です。
青色申告特別控除の適用を受けることで、デッドクロスにより利益が大きくなっている場合でも税金をおさえられます。
55万円の控除が適用されるための条件は以下の通りです。
- 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
- 複式簿記により記帳すること
- 貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、法定申告期限内に提出すること
加えて以下のいずれかの要件を満たすと、65万円の控除が適用されます。
- その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること
- その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出を、確定申告書の提出期限までにe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使用して行うこと
多くの節税効果を得られるため、確定申告は青色申告で行いましょう。
まとめ
不動産投資はデッドクロス(ローンの元金返済額>減価償却費)が発生すると帳簿上は黒字であっても資金繰りが悪化してしまい、金額によっては黒字倒産してしまうケースも考えられます。
デッドクロスを回避するためには法定耐用年数(減価償却期間)が長い物件を購入する方法があります。法定耐用年数が長い物件は減価償却費を経費計上できる期間が長いため、期間中デッドクロスが発生する可能性は低くなります。デッドクロスの発生をおさえるためのひとつの手段としておさえておきましょう。
なお、デッドクロスは確かに大きなリスクですが、発生を恐れて不動産投資を行わないという選択をすれば節税効果などのメリットも得られません。
デッドクロスのリスクとはキャッシュフローの悪化ですが、きちんとした資金計画を立て、あらかじめシミュレーションをしておけばリスクは低減できるといえます。
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